みなさんはCART治療をご存じだろうか。
日本語でいうと、腹水ろ過濃縮再静注法。
くりかえし腹水がたまってしまう患者さんにおこなわれる治療です。
たまった腹水をお腹からぬいて、細菌やがん細胞をとり除き、ろ過濃縮液をつくります。
そして、ろ過濃縮液を点滴でからだに戻すという治療法です。
聞きなれない治療法ですが、ろ過処理方法が進歩したおかげで、治療をうける患者さんがふえています。
くり返し腹水がたまりCART治療をうける患者さんは、苦痛と不安を抱えています。
今回は、CART治療をおこなっている患者さんの苦痛と不安に対して、看護師ができることは何かをお話しします。
Contents
患者さんの苦痛と不安
腹水がたまることによって、患者さんはさまざまな苦痛や不安と戦うことになります。
腹水のたまり具合や、病状の進み具合によって感じ方はちがいますが、苦痛や不安をもたない人はいません。
私が看護師としてかかわった患者さんは、次のような苦痛や不安を抱えていました。
- 身体的な苦しさ
- 治療に対する不安
- 病状はよくなるのか
- 仕事への不安
- 死への恐怖
腹水がたまることによって、身体的な苦しさや治療に対する不安、ひいては、元気になれるのか、元の生活ができるようになるのかというような生活への不安もきかれます。
お腹がはちきれんばかりに腹水がたまると、さまざまな辛い症状が現れます。
横隔膜が動くスペースが狭くなるので、呼吸がしずらくなります。
そのため、平らに上向きでねる姿勢がつらくなりますし、ぐっすり眠ることができなくなります。
呼吸ができないということは恐怖でしかありません。
そして眠れないということは、とてもストレスになるのですね。
そして、妊婦さんのようなおなかになるのですから、胃や腸が圧迫されて、食欲はなくなり、おなかが張って苦しいです。
食事が食べられないというのもつらい症状ですね。
気持ちがわるくなったり、便秘になる人もいます。
そういう苦しさを一刻もはやく取り除いてほしいという思いで、患者さんは来院されます。
しかも、短時間に治療をおえたいと考えるのですね。
CART治療は一日がかりで、朝から夕方遅くまで病院に束縛されてしまうのですから、さっさと治療をして早く家に帰りたいと思うのは当たり前のことですね。
患者さんは毎回、アクシデントがなく治療がスムーズに行われるように願っています。
そのためには、前日からの準備と医師との連携がカギとなります。
段取りきっちり、ぬかりなく。
ここは看護師の腕のみせどころですね。
看護師は、いつも細心の注意を払って治療にあたっています。
それでも、思うようにならない苛立ちから、声を荒げる患者さんもいらっしゃいます。
行き場のない辛い気持ちが、感情をおさえられなくなるのですね。
身体的苦痛にくわえて、よくなる見込みがあるのだろうかという将来への不安と、なんでこんなことになってしまったのだろうという後悔の念がいりまじるのでしょう。
苦しい胸の内を受けとめることも看護師の仕事ですね。
なによりも不安に思うことは、死への恐怖が頭をよぎることです。
大黒柱である男性だったら家族のことや家計のことも心配になるでしょう。
仕事ができなくなってしまった自分を嘆くでしょう。
病状に改善のきざしが無かったり、進展がみられないと気持ちが落ち込むのです。
辛い患者さんの気持ちをどう支えていけば良いのでしょうか。
腹水はどうしてたまるのか
まずは腹水はどうしてたまるのか説明しますね。
ひとは横隔膜の下に、胃や小腸、大腸、肝臓、腎臓、膀胱などがはいっている空間があります。
その空間を、腹腔といいます。
腹腔には、通常20~50mlの水が入っていますが、病気の影響で、たくさんのお水が溜まってしまうことがあります。
腹水がたまる理由は、以下のようになります。
大まかには、肝硬変による血液中のアルブミンの低下と病気やがんなどによるものです。
- 肝硬変による血液中のアルブミンの低下
- 病気やがんなどによるもの
- その他(門脈圧の上昇や心臓の病気など)
血液中には、アルブミンといわれるたんぱく質があります。
アルブミンは重要なり!
アルブミンは、血管の中に水分を保ったり、血管の中に水分を取り込む働きがあります。
肝硬変になるとアルブミンをつくる機能がよわくなって、血液の中のアルブミンが少なくなります。
そのため、水分が血管の外に漏れだしやすくなり、漏れでた水分を血管の中に戻せなくなるのです。
だから、おなかの空間にお水がたまりやすくなるのですね。
炎症性の病気やがんでは、血管から血液成分や水分がしみだしやすくなり、腹水がたまります。
CART治療とは
利尿薬などの薬を使用したり、おなかに針を刺して腹水を抜いても、何度もくり返し腹水がたまってしまう場合(難治性腹水)にCART治療がおこなわれます。
ろ過システムがあり臨床工学技士さんがいる総合病院で、たびたび施行される治療方法です。
一回の治療は、3行程で成り立っています。
まずはじめに、患者さんのお腹に針を刺して、たまった腹水を抜きます。
腹水を抜く時間は、だいたい2~3時間くらいかかります。
抜いた腹水を、ろ過システムにかけて、細菌、がん細胞や血液成分をとりのぞき、アルブミンなどの必要な成分(ろ過濃縮液)だけにします。
ろ過濃縮液をつくるのに2~3時間くらい。
ろ過濃縮液ができる間に、患者さんには食事をとっていただきます。
ろ過濃縮液が出来上がってきたら、静脈から点滴します。
ろ過濃縮液を点滴する時間が2~3時間くらい。
3工程は、それぞれに時間がかかりますので、一日がかりの治療です。
- お腹に針を刺し、たまった腹水を抜く
- 抜いた腹水からアルブミンなどの有用成分をとりだし、ろ過濃縮液をつくる
- ろ過濃縮液を点滴で患者さんのからだに戻す
以前は、がんの患者さんの腹水は、ろ過膜がつまってしまうため適応外でした。
ところが、ろ過システムの改良によってがん患者さんでも治療が受けられるようになりました。
腹水はなぜたまるのかでお話ししたように、腹水がたまる理由は、アルブミンが少なくなるからです。
そのため通常は、アルブミン製剤(血液製剤)を血管からおぎなう治療が行われます。
CART治療の場合、自分の腹水からアルブミンを取り出して、自分のからだに戻す治療です。
自分の体内のものなので副作用などないように思われますが、そう簡単にはいかないのです。
副作用が現れることがあります。
次に、CART治療の副作用についてお話しましょう。
CART治療の副作用
ろ過濃縮液をからだに戻すときに、副作用がおこりやすく注意が必要です。
おもな副作用は、
- 発熱
- 寒気
- 血圧上昇
- 頭痛
- 吐き気
- アレルギー
ろ過濃縮液の点滴開始から15分くらいは、点滴速度をゆっくりにして、アレルギーの症状がないか注意し、血圧にも気を配ります。
それ以降も副作用が起きないように、ろ過濃縮液は、一時間に100mlくらいのゆっくりした速度で慎重に点滴します。
私の経験では、何人かの患者さんが寒気を訴えました。
からだが敏感に反応するのですね。
寒気の訴えがあれば、毛布や布団をかけて温かくして、発熱に気をつけましょう。
発熱された方もおられます。
発熱した場合は、必ずドクターに報告してください。
ドクターからお薬が処方されることもあります。
以上、腹水がたまる理由と、CART治療の説明をさせていただきましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
それでは、いよいよ本題にまいりましょう。
CART治療をおこなう患者さんの苦痛と不安について看護師として何ができるかです。
看護師として何ができるか
無事に治療が行われ、病状が回復するように手助けするのが看護師の役目です。
そして、CART治療を行う患者さんの苦痛や不安に対して、私たち看護師にできることは何でしょうか。
治療中は、ベッドに横になっている時間が長いので、苦痛がないか気を配ります。
外来処置室のベッドやストレッチャーは、寝心地がわるいものです。
ずっと同じ姿勢でいるとかなり疲れます。
そして腹水をを抜く前に、必ずトイレを済ましてもらうように誘導することも忘れてはならないことです。
腹水を抜いているときは、トイレに行けないし、体をあまり動かすことができなくなるからです。
腹水を抜く時の注意事項として、短時間に多くの水分と電解質が体から失われるので、脱水や電解質異常の症状に気をつけます。
腹水を抜いた後は、患者さんの意識状態にも注意が必要です。
看護師の仕事の中で、最も大切なことは、患者さんの気持ちに寄り添うことです。
CART治療は、午前中から夕方まで一日がかりの治療になりますので、患者さんと話す時間をなるべく作りましょう。
そして、患者さんの想いや不安を聴いてください。
患者さんは孤独です。
いっぱい不安と闘っています。
なるべく患者さんのそばにいてください。
悩みを聴くことで、患者さんの気持ちは少し晴れます。
そして、もう少し頑張ろうと思えるのです。
会話や声かけが、患者さんの生きようとする力になることを知っています。
CART治療をうける患者さんの苦痛と不安に、看護師ができることは:まとめ
本日は、CART治療の説明と、治療をうける患者さんの苦痛と不安に、看護師として何ができるかをお話させていただきました。
患者さんは、病状を少しでも良くしようと治療をうけられています。
私たち看護師が、患者さんと一緒に治療に向き合い、一緒に病気と闘う気持ちで接すれば、病状は改善すると信じています。
私たち看護師との会話や、励ましの言葉が患者さんの大きな力になるのです。
ここからはお酒が好きなあなたに追伸です。
お酒だけが肝硬変になる原因ではありませんが、肝臓をいたわってあげてほしいのです。
肝臓は沈黙の臓器といわれます。
肝臓がかなりわるくならないと自覚症状があらわれません。
そして、肝臓が固くなって肝硬変にまでなってしまうと、元に戻すことは容易ではないのです。
休肝日を設けて、肝臓をいたわってあげてください。
肝硬変になって、腹水がたまってしまうことがないようにどうぞ気をつけてくださいね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。