食欲の秋、アニサキスによる食中毒に注意

食欲の秋、アニサキスによる食中毒に注意

「読書の秋」「食欲の秋」「スポーツの秋」、秋は楽しみが増えますね。

その中から本日は「食欲の秋」にちなむお話をさせていただきます。

食欲の秋!

さわやかな気候になって、食べ物がおいしい季節になりましたね。

しかし、美味しい食事にも食中毒という危険が潜んでいるので注意が必要です。

消化器科クリニックに勤務していたころアニサキスが原因で、激しい胃痛を訴える患者さんを大勢目にしてきました。

激痛に苦悶の表情を浮かべる患者さん、忘れられないですね。

お刺身が大好きな方はどうぞアニサキスに注意してください。

食べ物がおいしい季節は、アニサキス症の患者さんがふえる季節でもあると覚えておいてくださいね。

今日は「アニサキス症」のお話です。

アニサキス

アニサキスは、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの魚介類に寄生する寄生虫(線虫)の一種です。

長さは2~3cm、太さは1mmくらい、透明から白色の幼虫です。

アニサキスのほとんどは魚の内臓に寄生しているのですが、魚が死亡して時間がたつと内臓から魚の筋肉に移動するようです。

目を凝らしてよくみればアニサキスがいるのが目で確認できますよ。

このアニサキスが寄生している魚を、生のままお刺身などで人間が食べると中毒をおこす場合があるのです。

食中毒

食中毒を起こす原因はいろいろありますね。

厚生労働省が発表している食中毒の内訳をみてみましょう。

令和2年 病因物質別月別食中毒発生状況を参考にグラフを作成しています。

令和2年病因物質別食中毒発生状況

報告されている食中毒では、大腸菌やサルモネラ菌、カンピロバクターなどの細菌や、ノロウイルスなどのウイルスによる食中毒が圧倒的に多いですが、寄生虫による食中毒しかもアニサキスによる食中毒も意外と多いのです。

令和2年度の寄生虫による食中毒は484人。そのうちの396人がアニサキスによるものです。

アニサキス食中毒発生状況(患者数)

それでは次に、厚生労働省が発表しているアニサキス食中毒発生状況(患者数)をみてみましょう。

平成30年から令和2年までの3年間の発生状況を月ごとにまとめています。

年度/月123456789101112総計
令和2253840163837362531483131396
令和元222932352832231319453030338
平成30152833757646344538442420478
(参照:「厚生労働省アニサキスによる食中毒を予防しましょう」)

上の表をもとに積み上げグラフであらわしてみました。

アニサキス食中毒月別発生状況

月別で見てみると5月と10月が多いです。次いで4月が多いですね。

冬と夏は少なく、全体的には春が多いですが、10月も多く発生しています。

美味しいお魚がでまわり、お刺身を食べる機会が多いからでしょうか。

アニサキス症の症状と治療

では、症状と治療方法についてお話します。

アニサキスがからだの中に入ってから数時間から十数時間後に、激しいみぞおちや胃の痛み、吐き気、嘔吐がおきます。

患者さんに聞くと、かなりの激痛で、間欠的に胃が絞られるような痛みが襲ってくるようです。

アニサキスは、胃の中に入ると胃壁や腸壁に潜り込むようにして喰いつきます。

これが痛みや症状がおきる原因です。

中には蕁麻疹がでる方もいらっしゃいます。

アニサキスによるアレルギー症状です。

生の魚を食べて、蕁麻疹が出て、激しい胃の痛みがあれば「急性胃アニサキス症」を疑って間違いないでしょう。

かなり時間がたって激しい下腹部の痛みがおこる場合は「急性腸アニサキス症」の場合もあります。

アニサキスは、人間のからだの中では生きていけないので、一週間くらいで流れ出てしまうといわれています。

しかし、激しい痛みや症状があれば消化器科を受診して、アニサキスをとりのぞいてもらいましょう。

治療は、アニサキスをとりのぞいてあげることです。

ただちに内視鏡検査をしてアニサキスがいるかどうかを確認をします。

アニサキスがかみついたことで、胃の内部はむくんでいることが多いです。

そして、アニサキスは、かなりしっかり胃壁の内部に入り込んでいますので慎重に観察を行います。

アニサキスをみつけた場合は、鉗子を挿入してつまみ取ります。

胃の粘膜に潜入するアニサキス幼虫
(画像は厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」より引用)

アニサキスが途中で切れてしまわないように、慎重に鉗子を操作することも大切なことです。

なんと驚くことに数匹もかみついていた患者さんがいらっしゃいました。

すべて取りきらないと症状が残ってしまいますから気をつけないといけないですね。

アニサキスおそるべしです。

取り出したアニサキスは、とぐろを巻いたり元気に動いています。

まるで一寸法師の針のようですね。

患者さんの胃の中から取り出したアニサキスは、プラスチックボトルに入れて患者さんにお見せしています。

予防方法

生魚を食する文化がある日本ですから、美味しいお刺身やお寿司など食べたくなりますね。

でも、アニサキス症で苦しまないように気をつけてください。

気をつけていただくことをまとめました。

  • 魚の内臓を生で食べない
  • 魚の内臓は、はやめに処理する
  • 目視で確認する
  • 加熱する(70℃以上 60℃なら1分
  • 冷凍する(-20℃で24時間以上)
  • 酢での処理、塩漬け、しょうゆやワサビは効果がない

魚の内臓にはアニサキスがいますから早めに処理して、生では絶対に食べないでください。

内臓から身に移動してきたアニサキスは、眼で確認できますからよく見て取り除きましょう。

できれば加熱調理することをおすすめします。

もう一つは冷凍です。

ただし冷凍すればよいというわけではないのですね。

-20℃で24時間以上の冷凍にかぎります。

温度と時間を十分に気をつけましょう。

さらに気をつけなくてはならないことは、酢でしめたものや塩漬けしたもの、しょうゆ漬けやワサビでもアニサキスは死なないということです。

しめ鯖を食べてアニサキス症になってしまった患者さんがいらっしゃいました。

せっかく美味しいものをいただいても、あとで泣くことになってしまってはいけません。

後悔しないようにお気をつけください。

まとめ:食欲の秋、アニサキスによる食中毒に注意

私はアニサキス症の患者さんを多くみてきたので、なまのお魚をいただく時は注意して食べるようになりました。

釣りに出かけて、釣ってきた魚を食べるときなどはとくに注意が必要だと思います。

「食欲の秋!」

アニサキスに気をつけて、秋の味覚を堪能してください。

そして看護師としてアニサキス症で苦しむ患者さんに出会ったら、一刻も早く苦しみをとりのぞいてあげられるよう努力されることをお願いします。

今日も最後までおつき合いくださいましてありがとうございました。

次回もmomenblogをよろしくお願いします♪

引用文献:厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しよう」

参考文献:厚生労働省「令和2年 病因物質別月別食中毒発生状況」